賃貸人の修繕義務については、賃貸人側からも賃借人側からも相談を受けることが多くあります。
この問題は、土地の擁壁崩壊や建物の漏水などの大きなトラブルにも結び付きやすく、また、民法の改正の影響もあり、身近ながらも難しい問題です。
そのため、この記事では、賃貸人の修繕義務についてご説明いたします。
この記事の全体像(目次)は次のとおりです。

1 賃貸人の修繕義務とその根拠
2 修繕義務が生じないケース
 1) 賃借人に責任がある場合
 2) 修繕が不必要(問題が軽微)な場合
 3) 修繕が不可能(問題が顕著)な場合
 4) 特約で排除されている場合
3 修繕義務違反に対する措置
 1) 修繕義務の履行の強制
 2) 損害賠償請求
 3) 賃料の減額
 4) 契約の解除
※ 賃貸人の修繕義務違反を理由に賃料を支払わないことはできるか?

1 賃貸人の修繕義務とその根拠

 賃貸人は、賃借人に物を使用させることで、その対価として賃料をもらっています。
 そのため、賃貸人は、賃貸している物に欠陥(毀損や汚損等)が生じ、それによって通常の用法が妨げられている場合には、それを修繕する義務を負います。
 これについては、民法に次のような規定があります。

民法第606条(賃貸人による修繕等)
1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
  ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

2 修繕義務が生じないケース

1) 賃借人に責任がある場合

 前記の引用条文(民法606条1項但書)のとおり、物の欠陥(破損や汚損等)の原因が賃借人にあるときには、賃貸人には修繕義務は生じません。これは、令和2年4月1日以降に施行された改正民法によって前記(民法606条1項但書)のとおり明文化された規定です。
 他方で、物の欠陥の原因が明らかでない場合や不可抗力(老朽化や天災等)の場合でも、賃貸人は修繕義務を免れません。

2) 修繕が不必要(問題が軽微)な場合

 賃貸人の修繕義務は、賃貸している物の欠陥(破損や汚損等)によって「通常の用法が妨げられている場合」に生じるといわれています。
 そのため、物の欠陥(破損や汚損等)が軽微な場合など、通常の用法のために修繕が必要でない場合には修繕義務は生じません。

3) 修繕が不可能(問題が顕著)な場合

 他方で、賃貸している物の欠陥(毀損や汚損等)が著しく、修繕が不可能な場合には修繕義務は生じません。
 この点を疑問に思われる方もいるかもしれませんが、法律は実現不可能な義務を課さないという仕組みになっているからです。
 また、ここでいう修繕不可能は、物理的に修繕不可能な場合のほか、修繕に過大な費用を要するなど経済的に修繕不可能な場合も含みます。

 ただし、この場合、賃貸人は、賃借人に物を使用させる義務を提供できないことから、賃借人からの契約の解除等(賃貸人に責任がある場合には、損害賠償請求も含む)は免れないことになります。

4) 特約で排除されている場合

 賃貸人の修繕義務は、賃貸人・賃借人間の契約(特約)で排除することができます。
 そのため、賃貸借契約書の中に賃貸人が修繕義務を負わない旨の特約がある場合には、賃貸人の修繕義務は問われません。
 ただし、事業者と個人間の賃貸借契約の場合には、消費者契約法によって特約が制限されることもありますので、ご注意ください。

3 修繕義務違反に対する措置

 賃貸人が修繕義務を負うにもかかわらず履行しない場合、賃借人の立場からは、次のような対応が考えられます。

 1) 修繕義務の履行の強制(民法第414条第1項)
 2) 損害賠償請求(民法第415条)
 3) 賃料の減額(民法第611条第1項)
 4) 契約の解除(民法第541条、民法第542条、民法第611条第2項)

賃貸人の修繕義務違反を理由に賃料を支払わないことはできるか?

 賃貸人が修繕義務を履行しない場合、賃借人としては賃料を支払わなくてもよいのではないかという相談を受けることがあります。たしかに、賃貸人は、賃借人にものを使用させることで、その対価として賃料をもらっています。そのため、欠陥のないものを提供してもらわないかぎり、その対価を支払いたくないという賃借人の心情も分かります。
 しかし、民法は、賃貸人の修繕義務違反への対応として、賃借人による賃料の減額や契約の解除などの措置は用意していますが、賃料の不払いは用意していません。また、従前からの裁判例を見ても、物の欠陥によって「その物の使用に著しい支障が生じている」などの特殊なケースでない限り、賃料の不払いは認めていません。そして、賃料の不払いが正当化されない多くのケースでは、賃貸人からの契約解除や違約金の請求などが認められています。そのため、賃貸人の修繕義務違反を理由に賃料を支払わないことは、賃借人側のリスクが大きいためお勧めしません。

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JUNICHIRO TASHIRO

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