0 はじめに
離婚に関するご相談の中では、多くの相談者は、子どもをめぐってのトラブルや悩みを抱えておられます。
特に、子どもの連れ去りをめぐってはトラブルが拡大しやすく、その限界や法的救済について、皆様によく理解していただきたいところです。
そのため、今回の記事では、子どもの連れ去りが許容される限界と法的救済についてご説明いたします。
この記事の全体像(目次)は次のとおりです。
1 子の連れ去りが許される限界 1) 別居後の連れ去り 2) 別居を開始(同居を解消)する際の連れ出し a 同居中の監護の状況 b 連れ出しの態様 c その他 2 子の連れ去りが許されない場合の法的救済 1) 子の引渡し請求 ※ 自力救済は許されない 2) 監護者・親権者の指定・変更 ※ 監護権者・親権者を指定する際の考慮要素 3) 損害賠償(慰謝料)請求・離婚請求 4) 刑事責任 |
1 子の連れ去りが許される限界
子どもの連れ去りとは、夫婦(父母)の一方が、他方の夫婦(父母)の同意なく、その者の下から子どもを連れ出してしまうことをいいます。
このようなトラブルについては、夫婦(父母)が同居していれば問題は起こりませんが、夫婦(父母)が別居することになれば大きな問題になります。
また、別居に伴う連れ去りの中でも、別居時のものと別居後のものとで法的な許容性も大きく変わってきますので、順番に見ていきます。
1) 別居後の連れ去り
別居後に子どもを連れ去ることは、許されません。
このことは、実の親であっても許されませんし、連れ去られた子を取り戻す行為(連れ戻し)であっても、やはり許されません。
2) 別居を開始(同居を解消)する際の連れ出し
他方で、同居していた夫婦が別居を開始(同居を解消)する際に子どもを連れ出すこと(いわゆる子連れ別居)は、許されるという考えが一般的です。
ただし、そのような連れ出しであっても、次のような事情から悪質と評価されるようなケースについては、違法とされる場合もあります。
a 同居中の監護の状況
同居中にどちらの親が主として子育てに携わっていたのかは、最も重要な考慮要素です。
あまり子育てに関与していなかった親による連れ出しは、違法とされやすくなります。
b 連れ出しの態様
他方の親や子どもに対して不意をつくような形での連れ出しは、違法とされやすくなります。
例えば、他方の親に無断で幼稚園・保育園に迎えにいって連れ出したり、子どもを抱えて車に乗せたりする行為に対しては、厳しく評価されます。
また、他方の親の外出中に子どもを連れて家を出たり、子どもを連れて一時帰省したまま戻らなかったりすることは、直ちに違法とされるわけではないようです。
このような子連れ別居の許否については、その他の事情も考慮の上で、慎重に判断されている印象です。
c その他
上記のaとbが比較的重要な考慮要素だと考えますが、それだけでは判断が難しい場合、次のような事情を考慮しているケースもあります。
・ 連れ去りに至った経緯
子連れ別居について、正当な理由(暴言・暴力からの避難等)があるか。
夫婦間に別居の話題が出るなど、他方の親にとって別居・連れ去りが不意をつくような形になっていないか。
子どもの生活環境を一変させることへの配慮を欠いていないか。
裁判例の中には、このような事情を子連れ別居の正当性の判断要素にしているものもあります(東京地裁平成29年2月21日判決など)。
・ 別居後の経緯
他方の親に転居先を秘匿したまま、他方の親からの連絡を無視し続けるなど、他方の親と子の交流の機会を一方的に奪っていないか。
前記裁判例(東京地裁平成29年2月21日判決など)では、このような事情も、子連れ別居の正当性を否定する事情として挙げられています。ただし、別居に当たって転居先を秘匿することや面会交流を拒否する行為は、やむを得ないものとして非難すべきでないケースもあります。そのため、これらの行為については、正当な理由がない場合や度が過ぎた場合に問題視されると、限定的に考えてもよいかもしれません。
・ 両親の性別は?
両親の性別が子連れ別居の適法性に影響を与えることはあるのでしょうか。
これについては、母親による連れ出しのほうが、父親による連れ出しよりも許容されやすいという見解もあるようです。
性別で取扱いを変えることについては違和感もありますが、子どもが幼いうちは母親のほうが親権者や監護者と認められやすい傾向もあります。
そのため、子どもの連れ去りを巡る問題を考える上では、このような性別による運用の違い可能性についても、頭の片隅に入れておいてもよいと思います。
2 子の連れ去りが許されない場合の法的救済
1) 子の引渡請求
子の連れ去りが違法になされた場合、連れ去られた親は、家庭裁判所に対し、子の引渡しの審判を申し立てることができます。
違法な連れ去りに対する救済措置としては、これが最も直結する手続です。
自力救済は許されない 子どもを連れ去られた場合、自分の力で連れ戻すことを第一に考える方も多いと思います。 しかし、一度子どもが連れ去れてしまった以上、これを連れ戻すことは、上記1の1)に記載の「別居後の連れ去り」の考え方のとおり、許されません。 そのため、たとえ救済措置であっても自らこれを行ってしまうと違法な連れ去りとして法的措置に対象となってしまいますので、ご注意ください。 |
2) 監護者・親権者の指定・変更
また、離婚前に子を連れ去られてしまった場合には、前記1)の子の引渡し請求と併せて、子の監護者指定の審判を申し立てることが考えられます。
子の監護者指定の審判とは、夫婦のどちらが子どもと同居して世話をする監護者としてふさわしいかを、家庭裁判所に判断してもらう手続です。
そして、裁判所から子の監護者として指定された場合には、他方の親であってもこれを侵害することができなくなります。
また、離婚協議に当たっては、離婚後に父母のいずれかが子どもの親権(離婚後に子どもを監護したりその財産を管理したりする権限)を持つのかを定めなければなりません
これについても、夫婦で協議が整わない場合には、裁判所に審判を求めることになります。
そして、監護者・親権者のいずれを決めるに当たっても、子どもを違法に連れ去ったことは、その親に不利な事情として考慮されます。
監護権者・親権者を指定する際の考慮要素 監護権者・親権者を指定する際の考慮要素としては、 主たる監護者、監護の継続性、監護体制・監護環境、監護能力・適格性、 監護開始の適法性、子の意思、きょうだいの不分離、面会交流の許容性 などが挙げられます。 そして、上記の考慮要素の中では、とくに「主たる監護者」と「監護の継続性」が重視されがちです。 他方、「子の意思」も重要に思えますが、子どもの年齢が高くないうち(10歳程度まで)はあまり重視されません。 そのため、子の連れ去りにあった場合、連れ去り後の生活実態(連れ去った親による親子生活)が継続すればするほど連れ去られた親に不利になります。 監護開始の適法性もある程度は考慮されますが、その後の生活実績の積み重ねに対し、事実経過上も立証上も限界もあるからです。 |
3) 損害賠償(慰謝料)請求・離婚請求
さらに、子どもを違法に連れ去ったことは、他方の親に対する不法行為(違法な法益侵害)になり得ます。
そのため、他方の親からは、それを理由とする損害賠償(慰謝料)請求や離婚請求も考えられます。
4) 刑事責任
加えて、親権を有しない者による子どもの違法な連れ去りは、民事上の問題にとどまらず、刑事上の責任に問われる場合もあります。
すなわち、親権者の同意のない連れ去りは、たとえ一時的なものであっても、また、子どもの同意を得たものであっても、刑事責任が問われる危険があります。
未成年者略取罪・誘拐罪(刑法第224条)がそれに当たります。
刑法 第224条(未成年者略取及び誘拐) 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。 |
3 おわりに
この記事では、子どもの連れ去りの法的問題を詳しく解説致しました。
子どもの連れ去りは、別居に当たって非常に問題となりやすい半面、犯罪にもなりかねない危険な面もあり、その早期救済も重要になってきます。
そのため、別居の際の子どもとの関わり方については、ぜひ弁護士にご相談ください。
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